六雁の書き散らし

日々の備忘録。

悲しみのイレーヌ(ネタばれあり)

 悲しみのカミーユを読んでの雑記

 

 悲しみのイレーヌは、ピエール・ルメートルの処女作であり、邦訳された作品としては2作目というシリーズものとしてはあまり宜しくない順番で日本で公表された作品です。

 原題は「Travail soigné」日本語では、「丁寧な仕事」というものです。

 恐らく邦訳の1作目となった「その女アレックス」とタイトルを被せる意図でこの訳としたようですが、前作の売れ行きからして正直「丁寧な仕事」というタイトルでも良かったのではないかと愚考します。

 

 シリーズものであるため、これから読む方は「悲しみのイレーヌ」から読むことをお勧めします。2作目である「その女アレックス」にて盛大なネタバレが随所に出てきますし、主人公の心理状況をよりよく理解できるためです。

 私個人としては、その女アレックスよりもこちらのほうが好みですしね。

 

 さて、徒然と所感を書き散らかしましたが、この話のあらすじです。

 ヴェルーヴェン警部という身長145㎝の小男が率いる個性豊かなチームが、猟奇殺人を担当することになるのですが、これがどうにも過去の迷宮入りした猟奇殺人と同様の殺人犯であるとわかります。

 本そのものは第1部と第2部の構成となっており、第2部に入ると必ず読み返したくなると思います。自分の認識していたものは何なんだと。

 

 さて、以下にネタばれを含んだ感想を書きます。検索した人はたいてい読了後だと思うので、すぐ下に書き始めます。なので、もしも読んでいないという方がいらっしゃりましたら、ブラウザバックをお勧めします。

 

 私は冒頭で述べたように「その女アレックス」を先に読んでいたので、メタ的な視点で楽しむという結果になってしまいましたが、それでも十分に楽しむことができました。

 作品自体に登場人物が少ないため、犯人のめぼしは付きやすいです。しかし、捕まえるまでの過程が恐ろしく難しく、スリルを味わいながら読むことができるため推理小説というよりサイコホラー小説を読んでいるような気分になりました。

 小説の中に小説が入っているマトリョシカのような作品構成となってるので、きちんとした3人称で小説を読むことができませんでした。なので、第1部がどこまで真実を描いているのかが分からず、良い意味で悶々とした読了感でした。

 犯人が描いている小説なので、恐らく犯人は美化されて描いてあるでしょうから、この小説の中では正確な犯人の像が見えてこないのが面白いなと感じました。

 なんせ本当の3人称視点である第2部の最後の手紙でのみ描かれているので、姿などは見えていません。

 

 その手紙の中で、犯人は小説ではなく事件だと言及していましたが、ドキュメンタリールポのようなものだと考えたとしても、創造の部分が多く入り混じっていると考えています。そのため、虚実が入り混じっており何が起きたかは把握できても登場人物の感情の機微まではわからないという個人的にはとても面白いスタイルでした。

 

 ピエール・ルメートルの作品を買い集めてみるのもありかなと思っています。